アラーキー降臨

f:id:Shimabanana:20160603104828j:plain:right:w250 家で仕事をしていても夕方からのイベントが気になる。17時過ぎに家を出て神保町ファインアーツで整理券を貰う。8番目だった。大竹昭子さんによるトークと朗読の夕べ、カタリココの本日のゲストはアラーキー。やっかいな病気や右目の失明を聞いていたので、どんな姿で登場するかやや心配だったけれど。開演30分前、「早すぎた?」と入り口から大きな声が聞こえてきた。振り返るとご本人。ライカを手にしている。以前と変わらずエネルギッシュでオシャレ。「早いよね、ちょっとひと回りしてくるわ」と明るく去りつつ、「今日は質問に応えればいいんでしょ」と主催者に語りかける。シャイだなぁ。
 再び登場は開演6分前。そのまま席についてトークもスタート。この人、せっかち。陽子夫人との新婚旅行を撮った「センチメンタルな旅」(1971)の復刊に寄せてということで、撮影時のことを中心に大竹さんは話をすすめる。ニコンFに21ミリレンズ1本だけつけて持っていったそうで、人物が不思議に歪んでいるのはそのため。当時、陽子夫人はモジリアーニが好きで、そのせいか、アラーキーが撮影した陽子夫人も何となくモジリアーニの女性風に写っている。「あたしはアラーキスリングでもよかったんだけれど、アラーキモジリアーニになったのはレンズのせい」
 インタビューの大竹さんの懐を借りるかたちで、アラーキーがしゃべり倒した90分。ダジャレを含めてさすがに言葉の人。心に響く言葉がいっぱい採集できた。
「無意識にまかせるほうがいい。無意識で写真を撮っているから、撮影した自分でも見るたびに新しいストーリーが生まれて、飽きないんだよね」
「個性にしがみつくのはよくないね、あたしの場合は私性。私ごとにすぎない」
「今日は空がよかったね。だからすっぽかそうと思ったんだけどさ」
「毎日が何かをさせるんだな。その時、その時に気づかされる。日記じゃなくて、時記。時の記録。いい時を写真でちょっと押さえるの」
「つまらない日は絶対にないから毎日写真を撮ることで発見がある。遠くに行く必要なんてない。ものすごい近場にすばらしいことはある」

 ──元気になったかな? さよなら!と思い切り明るくアラーキーは退場。わたしも無性に写真が撮りたくなる。
 
 神保町の文化遺産とも言うべき居酒屋「兵六」で鰯胡麻酢と餃子、ビールでアラーキーを振り返る。今朝もまだ兵六のカウンターの椅子の痛さが残っている。