山口小夜子

阿佐ヶ谷のもう一つの映画館、前から気になっていたユジク阿佐ヶ谷。ロビーの黒板ギャラリーがいい感じ。この時の絵はスズメさんが描いたという。お目当て「氷の花火 山口小夜子」(松本貴子監督)を観る。
「もう今日で最後にしようと思うんだけれど、また、観に来ちゃった。7日連続よ。麻薬みたい」と、ヒョウ柄のショートパンツスーツを着たおしゃれなおじさまが連れのおばさまたちに語りかけている。小夜子さんの知り合いらしいことが会話からわかる。

膨大な遺品の箱を杉野学園の後輩たちが開けて分類するところから映画は始まる。偉人の遺品には力がある。
ランウェイを歩くことについて、30代の小夜子は「自我をなくして、空っぽになれば、どうすればいいか服が導いてくれる」と言っている。
友人だった立花ハジメの「宇崎竜童さんとか、板前のような人が好きでしたね」というコメントが面白い。
カンサイ、ケンゾー、ディオール、サンローランなど多い時は15のメゾンからオファーを受けてパリコレに登場した小夜子。セルジュ ルタンスがクリエイトした資生堂の広告で完璧な美を表現する小夜子。
そこまでは知っていたけれど、小夜子に憧れ影響を受けたデザイナーや写真家が少なくないことに驚く。ケイタマルヤマとかゴルチエとか、フォトグラファーの下村一喜とか。
ミューズってほんとうにいるんだな。KENZO 2004-2005AWパリコレ、50代半ばの小夜子がランウェイで踊る映像には震えた。映像の中のパリコレの会場でも「サヨコー」って声がかかっていた。観客も感動していたに違いない。それくらい空気を一変する力を持っていた。
90年代、青山ベルコモンズ前のベンチでくつろぐ小夜子を数回。そして、勅使河原三郎と共演した舞踊の舞台で小夜子を一回。ミューズを目撃したのは私の中の事件だったのかも。