夏至南風

 夏至南風(カーチバイ)の影響で高波になることが多くて、高速船が出るか出ないかはらはらする梅雨明けの波照間島行きも、今年は晴天に恵まれてすんなり。強い光線のおかげで空も海もこの世のものとは思えない色彩で出迎えてくれた。空気が甘くて、普通にしていても深呼吸ができる。車も人も少ないせいか、深々といつまでも眠れることができる。必ず帰りたくなくなる。でも、この紫外線が強い島での生活は厳しいことも容易に想像がつく。自然に逆らわず、知恵をもって共存しているから地元の人は、賢く、飾らず、素のまま。だからここに来ると心が洗われる。

   波照間島の南には、さらに南波照間島(パイパティローマ)があると信じられていて、人頭税に苦しんだ島民の中にはその島を目指して島から出ていった人がいたそうだ。美しいことと辛いことが同居する暮らし。ダレきった今の私には想像を絶する。 
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   旅行疲れか出た体を引きずって中央区のとある老舗に伺い、86歳になる大旦那から戦後復興の話を聞く。終戦の時には16歳だったという。エンジン音を聞くだけで敵機の機種がわかってしまう航空機マニアの秀才は、軍国少年だった。天皇陛下のために死ぬことがちっとも怖くなかった。敗戦を迎え、食べることに精一杯で、どうやって生きてきたのか思い出せない。30歳になって哲学的に考えるようになり、それまでの自分は、生きていながら生きていなかったも同然だったことに気づいたという。そして、さまざまなことがあり、今があるから人生は面白いと明るく淡々と話される。聞いていて涙腺が緩んでしまった。