f:id:Shimabanana:20160531092155j:plain:right:w300松本の疲れが抜けない一日。仕事がちっともはかどらないまま、阿佐ヶ谷散歩、深川落語。
 以前は理容室だったのだろうか、それとも喫茶店? 阿佐ヶ谷散歩の途中で見つけた今は使われない古店舗も、雨と紫陽花がかわいらしさを添える。小雨のなか、猫は屋根でまるくなっている。
 
 チカぱんの知り合いがゆずってくださった鯉昇 兼好二人会@深川歴史資料館。鯉昇は「蛇含草」。餅を美味しそうに食べたり、曲芸のように伸ばしたり…というのが上手いと、鯉昇師匠の得意演目の一つのようだ。確かに上手いが、こっちまでお腹いっぱい。兼好師匠は「風呂敷」と「たがや」。色気があるなあ。女将さんや芸者を演じさせるとピカ一。
f:id:Shimabanana:20160531092153j:plain:right:w250家に戻ってから夕飯を作る。唐沢そば集落の直売所で買ったアスパラガスの芥子味噌マヨネーズ和えと、ミョウガダケの卵とじ。茅ヶ崎の叔母が送ってくれた相模湾産の鯖のひものとシラス。そして、キリン一番絞り 横浜づくり。三岸節子の『黄色い手帖』を拾い読みしている間に寝落ちてしまった。

 松本へ。当初の目的は松本クラフトフェアだったが、塩尻安曇野まで範囲を広げての旅となった。家々の庭ではヤマボウシが白い花をつけ、幼い苗が植えられたばかりの水田に青空が映り込む風景と長野中部の民芸やアート、文化、食、日本酒を満喫できたのは、松本在住歴があり歴史好き文化好きのスーパーナビ・サンちゃん、上田から駆けつけたペコちゃん、そしておケイネーネが運転役を引き受けてくれたおかげ。
f:id:Shimabanana:20160530115025j:plain:w400
 あがたの森でのクラフトフェアはとにかくものすごい出店数。芝生でピクニックしながらゆっくりクラフト散歩を楽しむには絶好な催しだけれど、マップもない、時間も限られた初心者にはどこをどう回っていいのかやや戸惑う。そんな中でも岡山の金工作家坂野友紀さんのスプーンと、岐阜土岐市の陶芸家林友加さんの白磁の皿、「種萬 廣田本舗」の手焼き玉子せんべいを買う貪欲さが自分らしい。
 f:id:Shimabanana:20160530115132j:plain:right:w250疾風のように駆け巡りながらも、時間は濃密だった。あえてベスト3を挙げるなら、3位 松本の人気バーの一つOLD PALのマスターがイチゲンの客である私たちに、イチローモルトのカードシリーズを飲ませてくれたこと。2位 初代館長で卵殻作家の故・丸山太郎さんの大らかさ、柳宗悦への共鳴が心地よく息づく松本民芸館。1位 田植を終えたばかりの水田に囲まれた林の中にある手打ちそば「丸泉」。古い民家でいただいた十割蕎麦、瑞々しいアスパラガスの芥子マヨネーズ和え、香り高い山うどの天ぷら、お茶うけの沢庵、そして、大正時代までは造り酒屋で「太泉」という日本酒を醸していたというストーリー。
 大満足で家に戻ると、相方がビールを飲んで待っていた。彼が抱える2人の高齢者(母と94になる叔母)を訪問してかなり疲弊したらしい。それを話す相手が欲しかった模様。役に立たずに遊んでばかりのヨメで悪いな、と思いながら聞き役。遊んできた後ろめたさがあるぶん、やさしく冷静に対応できる、と自分を納得させる。いろんな不安をかかえながら、現実を直視できない自分には気づいてはいるのだけれど。

備忘録
 1日目/源智の井戸脇のげんち蕎麦→松本クラフトフェア→松本市美術館でのバーナード・リーチ展→珈琲まるも→中通りの松本民芸店 ちきりや→郷土料理・新三よしでの馬肉しゃぶしゃぶと塩イカの酢の物松本城のライトアップ→シェーカーボックスで有名な井藤昌志さんのセレクトショップ&ギャラリー「LABORATORIO」での江澤香織さんプロデュースのパーティ→オーセンティックバー「OLD PAL」
 2日目/珈琲美学アベのモーニング→屋根の上の八角形の塔が印象的な旧山辺学校→松本民芸館→旧高田家住宅→塩尻の手打ち蕎麦 丸泉→安曇野 碌山美術館穂高川堤防沿いの早春賦の歌碑→山葵畑→松本

 大慌てで上野まで行き、駅ナカのザ・ガーデンで井泉のヒレカツサンドを買って上野鈴本演芸場に着いたのが14時ごろ。脳天先輩からいただいた入場券で客席に入ったらほぼ満席。それでも一人だったので、前から三番目という席に座ることができた。百栄師匠は「寿司屋水滸伝」。のったりした感じがたまらない。三三師匠は十ヶ月ぶりくらい。出囃子が聞こえてきただけで、しばらくぶりの恋人に逢うみたいに顔がにやけてしまう。やっぱり好きなんだぁ(勝手に言ってらぁ)。改作力が感じられる「お血脈」。一之輔師匠は最近よく聴いているから、ドキドキしないで見ていられる。演目は「置どろ」。トリの燕治師匠は「笠碁」。人情味あふれる豊かな表現力。
 f:id:Shimabanana:20160528013140j:plain:right:w350途中で入ったのに席に恵まれていた。周りはほとんど一人客で、左隣のおじさまは明朗な声でドカドカ笑う。右隣の女性も楽しげに笑い声を上げる。つられてわたしもバカ笑いしたので、鈴本を出た時にはすっきり、気分は軽々。脳天先輩ありがとうございます。
 家に戻ってテレビをつけると、オバマ大統領の広島平和記念公園でのスピーチが終りかけているところだった。鈴本でも紙切り芸の林家楽一さんが客席の「オバマ」という注文に応えて、原爆ドームと大統領の切絵を作って見せてくれた。こうしてオバマ大統領広島訪問と楽一さんの切絵は、セットで私には記憶されたのでした。
 帰りがけに「やおゆう」で北海道産のネマガリダケを一束580円で購入。10分下茹でして、そのまま冷やし、皮をむいて油揚げとの炒め煮を作る。我ながらおいしくできた。

 経堂こども文化食堂についての取材で、放送作家にしてプロデューサー、経堂「さばのゆ」主人など、多方面で活躍する須田泰成さん、そして、「まだん陶房」主宰の李先生や本田さんのお話を聞く。いつも「さばのゆ」でお会いする須田さんは大らか。いろいろな仕事をもちながら、個人店や地域の生産者をつなぐことにも勢力的で、ご本人は「ゆるーく続けるのがコツ」と言うけれど、なかなかできることじゃない。見せてもらった子どもたちが作った陶器、かわいかったな。
f:id:Shimabanana:20160527101534j:plain:right:w250 夕方5時半、まだ明るい時間から同世代の女友だちと富岡八幡宮参道にある立ち飲みでハートランドビールで乾杯。ビールと肉団子、もろきゅうをシェアして2人で770円なり。さらに大横川沿いの路地裏にある「六三四」に移動して日本酒。ちょっと用事があったので9時には引き上げる。この2ヶ月、ここ数年で一番遊んでいるんじゃないか。遊びすぎて不安になる。

とと姉ちゃんのあとBSNHKを流していたら、桑子真帆ちゃん出演の番組が始まり、つい引き込まれる。一ヶ月前に放映された「一本の道 〝天空の城〟古代ローマの道をゆく」というドキュメンタリーの再放送。中部イタリアの古代遺跡や絶景を結ぶ一本道を6日かけて歩くのだけれど、絶景と絶景の間のオリーブ畑や林の小径といった何でもない風景や、ガイドのスザンナ・ビガンゾーリさんが作ってくれる家庭料理の中に、脈々と流れている何かがあることを感じさせてくれる。途中、イタリアで消滅した道を復活させている男性が出て来て、「道は、人間でいうなら体に張り巡らされた動脈な静脈のようなもの。大きな道だけが残っていくけれど、細静脈や毛細血管のような道も必要。地球も体と同じで機能しなくなる」と話す。桑子ちゃんもよかったけれど、スザンナさんのような謙虚で慈愛に溢れたイタリア女性を初めてテレビで見た。絶景と絶景を結ぶ日常の道、グルメではないふだんの食の中に隠されたものをこのブログで拾っていこう。
f:id:Shimabanana:20160526085159j:plain:right:w250  散歩堂の旦那が行けないかもしれないというので、落語研究会のチケットを譲ってもらう。この日の圧巻は、柳家さん助師の「阿弥陀池」。大きな声と迫力、やや不気味な存在感、ヘンテコな個性に、さらにすごみがついた。若き楽友UNAちゃんから、さん助師のことを教えてもらったのが三年前。さん助師がまだ二つ目のさん弥さんだった時だ。その後、UNAちゃんは席亭として「夜の九時落語」を主宰する(今月頭迄合計二〇回続けて終了)のだけれど、UNAちゃんの慧眼が今更ながらにまぶしい。

 つくしの子のお母さんが作ってくれたセリのおひたしを再現したくて、阿佐ヶ谷スターロードの入り口近くの八百屋「やおゆう」へ立ち寄る。あいにくセリはなくて、青みずが四束のこっていたのでそのうち二束と生なめこを買う。飲屋街にある八百屋は、珍しい食材が手に入る。青みずの油炒めは、青森で義母に初めてならった料理だったのような。何十年も前の夏、お互いに遠慮しながらも和気藹々と、新聞紙を広げた上でみずの薄皮をむきながら5センチほどの長さにポキンポキンと手折っていった。「蛇が出そうな湿った所に生えているんだよ」とお義父さんも声をかけてきた。だから蟒蛇草(ウワバミソウ)という名前も持っている、ということを知ったのはつい最近だけれど。

 今日はワンデーアキュビューのプロダクトマネージャーに取材するため原宿へ行った。表参道と明治通りの交差点近くで編集者を待っていると、どこもかしこも新しいビルで、自分は冷めた目で眺める。原宿セントラルアパートがあった場所なんて、あれから二度は新築したんじゃないかしら。日曜日の鬼子母神通りみちくさ市で、股旅同盟のさるえ堂さんから『原宿セントラルアパートを歩く』を買ったばかりだから、なおいっそう70年代の原宿セントラルアパートが懐かしい。

f:id:Shimabanana:20160525153543j:plain